幼少期からの過度な偏食-発達障害との関連も

金沢市に在住の62歳の女性の18歳の長女は、生後8カ月頃から食事の時間になると泣くことが多かったそうです。
嫌いな食べ物を見ると涙を浮かべ、好きなものを食べ終わると、それがなくなってしまった悲しさから涙ぐむこともありました。
食に関する長女の悩みは特に尽きることがなかったとのことです。
(※2024年11月21日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
食を通じて学んだ、子育てで大切なこと
離乳食の進み具合は平均よりもゆっくりで、形が崩れていたり尖っていたりするものは口にしませんでした。
最初のうちは食べていた野菜も、次第に拒むようになりました。
3歳になっても哺乳瓶でミルクを飲み続け、食べられるものといえば白米と肉くらいだけでした。
長女が放った「名言」は、「私、食べたことがないものは嫌いなの」という一言でした。
また、幼稚園にもなかなか馴染むことができず、特に給食の日を嫌がったため、入園してわずか3カ月で通えなくなりました。
その後、少人数の別の幼稚園に通い始め、緩やかな指導のもとで、お友達が楽しそうに食べる姿に触発されることで、少しずつ食べられるものが増えていきました。
母親は、「食だけに限らず、子どもを見守り、待ち、そして受け入れることの大切さを学びました」と振り返ります。
成長とともに変化した食のこだわり。そこから親子の学びへ
長女は4歳のときに自閉症傾向があると診断されました。
その後、療育を始め、小学校では特別支援学級に通いました。
入学前には校長先生や担任の先生と相談し、給食を無理強いしない方針で対応してもらうことが決まりました。
小学校中学年頃まではやせていましたが、幸いなことに大きな病気もなく順調に成長しました。
そして、本人とも話し合いながら、小学6年生から徐々に普通学級へ移行しました。
中学校入学時には、担任や学年主任に偏食を含めた生活面での困りごとを伝えましたが、中学・高校ともにほぼ休むことなく通学することができました。
修学旅行などでは、食事の場面で苦労したこともあったと思います。
しかし、最近ではハンバーガーを分解せずに食べ、レタスやピクルスも一緒に口にできるようになりました。
そして、この春には大学へ進学し、学食で少しずつ野菜にも挑戦しています。
ある日、「みんな、野菜サラダは体にいいから仕方なく食べていると思ってたけど、おいしいと思っているんだね!びっくりした」と話してくれた長女の言葉に、家族もまた驚かされました。
食に関する困りごとについて、母親の会のような集まりにも何度か参加しました。
発達障害のある子どもたちはそれぞれ独自のこだわりを持っており、白米に何かが混ざるのが苦手な子や、白米が見えなくなるほどふりかけをかけないと食べられない子もいることを知りました。
同じような悩みを抱える方々と話をすることで、現状は変わらなくても心が軽くなったと感じることができました。
娘への願いと健やかな未来へ・・・
偏った食生活が体に良いわけではありませんので、これからは自分自身で食べ物に気を配り、生活習慣病などを予防できるようにしてほしいと願っています。
また、社会へと羽ばたいていく過程で、娘の周りに理解してくれる良き支援者がいることを心から祈っていますと、その女性は語りました。
発達障害と食の困難、専門的支援の必要性
偏食などの「食の困難」と発達障害との関連性を指摘する研究報告もあります。
特別支援教育に詳しい日本大学の高橋智教授と金沢大学の田部絢子准教授によれば、食べ物のにおいや色、形、かんだときの音や食感など、本人にしかわからない感覚の苦手さが、偏食につながるケースがあるとのことです。
この2人が2016年から2017年にかけて実施した調査では、発達障害の診断を受けた、もしくはその可能性がある小中学生の保護者65人を対象に聞き取りを行いました。
その結果、「子どもの偏食に困っている」と答えた保護者は全体の約71%に達しました。
また、約30%の保護者が周囲から「わがまま」「好き嫌いをさせるな」「しつけが足りない」などと非難された経験を持つと回答しています。
こうした状況から、専門家による支援の必要性が強く求められていることがわかります。
食の困難が育児ストレスの一因に?
調査では、「家族の食事と別に献立を考えたり作ったりすることが負担」と答えた保護者が約22%、「せっかく作った料理を食べてもらえず、自信や意欲を失う」と答えた人が約17%、さらに「外食に連れて行きにくい(または行きたくない)」と回答した人が約12%にのぼり、「食の困難」が育児ストレスの一因になっている可能性が示されました。
高橋教授は、「食べることは、異物を体内に取り入れる行為であり、自然にできるようになるものではなく、時間をかけて少しずつ慣れていくものです。
食べること自体が発達そのものを表している」と述べています。
また、「発達や認知の特性によって食に関する困難が生じている場合、管理栄養士や歯科医師、保健師など専門家による支援が不可欠です。
こうした理解と支援の方法を広く普及させることが重要です」とも語っています。