不登校の子どもに寄り添う新しい学びの仕組みと今後の課題を考える
不登校の小中学生を対象に、一人ひとりの状態や学習状況に応じた教育課程をつくる制度が検討されています。
柔軟な学びにつながる期待がある一方、評価や支援体制など、慎重に考えるべき課題もあります。
(※2026年1月26日の朝日新聞の記事を参考にしています)
一人ひとりに合わせた学びを可能にする新制度
文部科学省は、不登校の小中学生を対象とした「特別の教育課程」の新設を検討しています。
子どもごとに学習計画を作成し、それぞれの計画に沿って学習を進め、取り組みを評価できる仕組みです。
現在の学年に合わせるだけでなく、以前の学年の内容に戻って学び直したり、一部の教科だけを特別な計画で学んだりすることも想定されています。
各教科に加えて、子どもの興味に応じた探究やソーシャルスキルトレーニングなども、学習計画に位置づけられる見込みです。
実施場所は、学校内外の教育支援センターが中心となり、オンラインの活用も考えられています。
学校に毎日通うことだけを学びの条件とせず、子どもの状況に合わせて選択肢を増やす方向性には、多くの人が期待を持つのではないでしょうか。
私自身も、教室に入れないことと、学びたい気持ちがないことは同じではないと思います。
安心できる場所や方法を選びながら勉強を続けられるのであれば、子どもにとって大きな支えになるでしょう。
学習評価が子どもの新たな負担になる心配
一方で、NPO法人「多様な学びプロジェクト」代表理事の生駒知里さんは、学習評価が高校入試と結びつくことに懸念を示しています。
不登校の子どもの中には、周囲の期待に応えようとして無理を重ねてしまう子もいるといいます。
評価が入試に影響すると分かれば、まだ十分に休養できていない段階でも、成績のために頑張ろうとする子が出てくるかもしれません。
一時的には回復したように見えても、後になって燃え尽きてしまう可能性も心配されています。
また、中学2年生の子どもが小学2年生の内容から学び直し、小学6年生まで進んだ場合、その努力は非常に大きなものです。
しかし、その成果を高校入試でどのように扱うのかについては、簡単に答えを出せません。
異なる内容や進度で学んだ子どもたちを、客観的かつ公平に評価できるのかという問題も残ります。
学習への努力が認められることは大切ですが、点数や成績だけで測ろうとすると、制度の柔軟さが失われるようにも感じます。
入試のための評価ではなく、現在の理解度を把握し、次の学び方を考えるための評価とする方が、子どもにとって安心できる仕組みになるのではないでしょうか。
休む時期と学び始める時期を誰が判断するのか
検討中の制度では、不登校の状態を「休み始め」「休養期」「回復期」の三つに分ける考え方が示されています。
このうち、学習よりも休むことを優先する「休養期」の子どもは、制度の対象外となる方向です。
しかし、子どもがどの段階にいるのかを判断することは、決して簡単ではありません。
不登校になった理由や心の傷の深さ、家庭から受けられる支援は、一人ひとり異なります。
元気そうに話していても、学習に取り組める状態とは限りません。
反対に、自宅で過ごしていても、好きな分野なら少し学んでみたいと感じる日もあるでしょう。
大人でも、気分や体調は日によって変わります。
子どもの状態を三つの段階にはっきり分けることには、難しさがあるように思います。
状態の見極めには、スクールカウンセラーなどの専門性が必要ですが、現状では専門人材が不足していると指摘されています。
教育支援センターでは、退職した校長や有償ボランティアなどが担当している場合も多く、心理の専門知識を持つ人材が十分とはいえません。
制度を整えるだけでなく、誰が子どもを継続的に見守るのかを同時に考えなければ、現場が混乱する恐れがあります。
子どもと教員の双方を支える体制が必要
個別の教育課程を実施するためには、面談を行い、子どもの状態を確認し、学習計画を作成して評価する必要があります。
これらを学級担任だけが担うことになれば、教員の負担がさらに大きくなる可能性があります。
学校と教育支援センター、保護者との間で連絡や調整を行う仕事も必要です。
教員の働き方を見直す動きが進められているなかで、新しい制度の業務まで学校に集中させることには疑問を感じます。
生駒さんは、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門職を常勤で継続的に雇用し、知識や経験を蓄積できる体制が必要だと提案しています。
さらに、学校や家庭、教育支援センターをつなぐコーディネーターを配置すれば、教員の負担軽減にもつながるとしています。
子どもや保護者にとっても、毎回担当者が変わるより、同じ人に継続して相談できる方が安心できるでしょう。
「今は休んでも大丈夫」「今日はこの学び方を選んでもよい」と伝えてくれる存在が身近にいることは、制度以上に重要かもしれません。
子どもの声から仕組みをつくることが大切
新しい制度では、教育支援センターの居場所としての機能も維持される予定です。
学習だけでなく、安心して過ごすことや人とつながることなど、複数の機能から本人が利用方法を選べる仕組みが求められています。
その日の心の状態に応じて、勉強をする日、話をする日、何もせずに過ごす日があってもよいはずです。
不登校の子どもを学校へ戻すことだけを目標にするのではなく、本人が自分らしい学び方や生活を見つけられることが大切だと感じます。
次の学習指導要領は2030年度にも始まる見込みで、制度の概要は夏ごろまでに取りまとめられる予定です。
今後は、個別計画の作り方や評価方法について議論が進められ、具体的な内容は学校現場向けの「運用の手引き」にまとめられるとされています。
制度を実際に利用するのは、子どもや保護者、教員、支援センターの担当者です。
そのため、制度を決める側だけで話を進めず、当事者の声を丁寧に聞く必要があります。
学びを急がせる制度ではなく、休む権利を守りながら、学びたいと思ったときに手を伸ばせる仕組みになってほしいと思います。