親は「規制して」vs子は「支えなのに」-子どもとSNS

子どもたちは、SNSとどのように関わっていくのが望ましいのでしょうか。
つながりを深める手段である一方で、心や体に悪影響を及ぼす可能性もあります。
厳格な対策を講じているオーストラリアの事例を手がかりに、子どもたちとSNSとの望ましい関係性について探って行きましょう。
(※2025年3月23日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
オーストラリアは16歳未満のSNS利用を禁止。進む法整備に対し親たちは
子どもによるSNSの使用について、オーストラリアは「世界初」ともいわれる厳格な規制に乗り出しました。
昨年11月、同国の議会では16歳未満のSNS利用を禁止する法案が可決され、今年中には法律が施行される見通しです。
この法整備を積極的に推進したのは、子どもたちの健全な育ちを願う保護者たちでした。
「SNSは、思春期の子どもたちが抱える不安や弱さをより深刻にしてしまう可能性があります。子どもの成長にとって、年齢に応じた制限が必要だと考えています」と語るのは、政府に規制の必要性を訴えてきた市民団体「36 Months」のディレクター、グレッグ・アトウェルズさん(40)です。
これまでオーストラリアには、SNS利用に関する年齢制限の法的規定は存在しませんでした。
主要なSNSプラットフォームでは「13歳以上」を対象年齢としていますが、アトウェルズさんたちはさらに踏み込み、「あと3年、つまり36か月間はSNSを使わせるべきではない」との思いを団体名に込めています。
SNS規制に母親たちは賛同の声。子どもを守るために署名活動も
昨年5月、SNSの依存性や、いじめの温床になりかねない点を問題視した市民団体が、16歳未満の利用禁止を訴える運動を始めました。
この呼びかけは、保護者や教育関係者の共感を得て、半年間でおよそ12万7,000件の署名が集まりました。
特に注目すべきは、署名の約95%を女性が占めていたことです。
団体「36 Months」のディレクターであるグレッグ・アトウェルズさんは、「家庭内で子どもとスマートフォンの使用を巡って日々格闘しているのは、主に母親なのです」と語ります。
また、「全国の母親たちは、子どもに『SNSを閉じてスマホを片づけて』と伝えることの難しさに直面しているのです」とも分析しています。
実際、アトウェルズさん自身にも14歳の娘がおり、スマートフォンを持たせたところ、「スナップチャット」などのSNSに夢中になってしまったそうです。
使用を止めさせたいという気持ちがありながらも、それによって娘が友人関係から孤立してしまうのではないかという不安が、何よりも大きかったと振り返ります。
広がるSNS規制の波。影響は世界中へ
法律が施行されれば、上記のような不安は解消されます。
娘もその友人たちも、例外なくSNSの利用が制限されるためです。
「これからは、保護者が子どもを納得させやすくなるでしょう」と話します。
この団体は今後、ニュージーランドやイギリス、さらに日本などにも活動の範囲を広げ、同様の法整備を働きかけていく方針です。アトウェルズさんによると、「日本からの反響が特に大きい」と感じているそうです。
年齢だけでSNSに規制を設けるのは課題も
オーストラリア議会で可決された新たな法律は、SNS運営企業に対し、定められた年齢に達していない子どもの利用を防ぐための対策を講じるよう義務づけています。
これに違反した場合、最大で4,950万豪ドル(約50億円)の罰金が科されることになっています。
しかしながら、年齢確認の具体的な方法については現時点で明らかにされておらず、SNS事業者側もどのように対応すべきか、依然として不透明な部分が多く残されています。
子どもを守るための法整備を訴えるオーストラリア団体の声
オーストラリアの市民団体「コレクティブシャウト」は、SNS上で子どもたちが性的な被害や不適切なコンテンツから守られるよう、法的な対策が不可欠であると訴えています。
創設者のメリンダ・タンカード・リーストさん(61)は、「SNS企業は、子どもたちに深刻な影響を及ぼしてきました。
もはや自主的な対応を待つのではなく、法による強制が必要です」と語ります。
また、オーストラリアだけでなく、アメリカやヨーロッパなど他国でも同様の年齢規制が広がれば、それが国際的な圧力となり、SNS事業者も無視できなくなるだろうと指摘しています。
「他の国々にもオーストラリアに続いてほしい」との期待を示しています。
今回の法律で規制対象となっているのは、スナップチャット、TikTok、インスタグラム、X(旧ツイッター)などのSNSです。
一方で、教育・健康に関わるサービスとしてYouTubeは対象外とされています。
子どもたちの本音とSNS規制への戸惑いと反発
オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁止する法律が可決され、保護者たちからは大きな支持を集めています。
しかし、実際に影響を受ける子どもたちは、この動きをどう感じているのでしょうか。現地で子どもたちの声を直接聞いてみました。
昨年の年末、シドニー中心部の繁華街で、下校中の生徒たちに取材を試みました。
人通りの多い中、制服姿の若者を探しましたが、思った以上にスマートフォンを手にしていない子を見つけるのは難しかったです。
それもそのはずで、2023年のデータによれば、14~17歳の91%が携帯電話を所有しているとのことです。
SNSが日常の一部になっている中、今回の規制が子どもたちにどのような影響を及ぼすのか、今後も注視する必要があります。
SNS規制に揺れるリアルな本音、子どもたちの反応は
シドニーの繁華街で、下校中の男子生徒ジェイミーさん(13)に話を聞きました。
彼は、16歳未満のSNS利用を禁じる新しい法律が施行されれば、その対象となる年齢です。
「こんな法律はおかしい。不公平だって日本にも伝えてほしい」と強い口調で語ったジェイミーさんにとって、SNSは放課後や週末に友人と連絡を取る大切なツールです。
彼のように、スマートフォンが生活に溶け込んだ「スマホネイティブ」世代にとっては、SNSは欠かせない存在になっています。
駅近くで話をしていたキアンさん(13)は、すでに2年前からSNSを使い始めたとのことです。
「大人は僕たちのことを軽く見てる。小さい頃からSNSに触れてきたから、自分たちで使い方を考えて調整できる」と、規制に疑問を呈していました。
同じく13歳のオーウェンさんも、「政府が禁止しても、どうせ抜け道を見つけて使い続ける」と自信を見せます。
一方で、すでに規制の対象外となる17歳のミアさんも、法律について関心を持っています。
法案が可決された当初、学校ではこの話題で盛り上がったそうです。
「10代にとってSNSは必要。現実の学校生活で孤独を感じても、SNSではつながれる場所があるんです」と話します。
最近はインスタグラムで料理動画を見て、新たな趣味として料理に夢中になっているといいます。
また、14歳のポッピーさんは、SNSを日常の情報源として活用しています。
ニュースやファッションのトレンドも、SNSから得ることが多いとのことです。休日には、SNSで見たコーディネートを参考にしながら、私服でのお出かけを楽しんでいるそうです。
子どもたち自身もSNS規制に賛否あり
今回の取材では、計20人の中高生に声をかけた結果、19人が新しいSNS規制に反対する立場を示しました。
唯一、賛成の意見を述べたのは15歳の女子生徒、バレンティナさんです。
彼女は、「SNSはネット上でのいじめの引き金になることがあります。特に年齢の低い子どもには、悪い影響が出ることもあると思います」と冷静に話しました。
しかし、取材の終わりには少し笑いながらこうも語りました。
「実は、もうすぐ16歳になるので、私は規制の対象にはなりません。もし自分がまだ対象だったとしたら、今と同じように賛成できたかどうか、自信はないです」と、複雑な心境をのぞかせました。