有識者に聞く「子どもとSNS」海外で規制が進む中、日本の課題とは?

X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSを利用して他者と関わる未成年の子どもたち。
海外では規制が強化されつつあるが、日本が直面する課題とは何でしょうか。3名の有識者にお聞きしました。
(※2025年2月18日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
未成年を守るための規制の枠組みとは?-水谷瑛嗣郎さん(法学者)-
日本では、未成年とメディアに関するリスクへの対策として、主に二つの側面が重視されてきました。
一つは、性的・暴力的な内容など、年齢的に不適切または違法な情報に触れる「コンテンツリスク」。
もう一つは、他者との交流を通じて性的被害などの危険にさらされる「コンタクトリスク」です。
コンテンツリスクへの対策として、自治体の条例で青少年への有害図書の販売を禁止する措置が取られてきましたが、インターネットの普及により、その限界が指摘されています。
一方、コンタクトリスクに関しては、マッチングアプリなどの事業者に対し、出会い系サイト規制法によって利用者の年齢確認が義務づけられています。
さらに、青少年インターネット環境整備法では、携帯電話会社に対し、未成年向けのフィルタリングサービスの提供を求める規定が設けられています。
ソーシャルメディアのリスクと規制の動向
現在、SNSをはじめとするソーシャルメディアのビジネスモデルが生み出す新たなリスクにも目を向ける必要があります。
広告収益を目的に、事業者は利用者の関心を引くコンテンツを優先的に表示したり、次々と動画が再生される仕組みを採用したりすることで、依存を助長する傾向があります。
しかし、こうした事業者の手法に対する規制は、日本ではまだ整備されていません。
一方、海外では事業者への法規制が進んでいます。
EUでは、未成年のデータを活用したターゲティング広告が禁止されており、英国ではサービスが子どもに与えるリスクについて事業者が評価する義務を課しています。
オーストラリアでは、一部の事業者に対し16歳未満へのサービス提供を禁止する措置が取られました。
強いメッセージ性を持つ規制ではありますが、実効性には課題も残ります。
例えば、年齢確認の方法をどうするのか、また規制の対象となるアプリの線引きが適切かどうかも議論が必要です。
実際に、「Instagram」や「TikTok」は規制対象となっている一方で、同様にショート動画を提供する「YouTube」は対象外となっています。
サービスごとのリスクを見極め、柔軟な規制を
各サービスがどのように利用され、どのようなリスクが生じているのかを丁寧に分析することが重要です。
日本においても、事業者ごとの利用状況や、各社が自主的に行っている対策を踏まえた上で、新たな規制を設計する必要があるでしょう。
しかし、規制を細かく設定しすぎると、想定外のリスクが発生した際に迅速な対応が難しくなる可能性があります。
そのため、国が大まかな枠組みを示し、事業者が柔軟に対応できる仕組みを整えることが求められます。
規制と子どもの利益のバランスを考える-花田経子さん(情報セキュリティー教育者)-
子どもがSNSを利用することで、犯罪に巻き込まれたり、有害な情報に触れたりする危険性があるのは確かです。
誹謗中傷の被害に遭うこともあれば、自らが加害者になってしまう可能性もあります。
そのため、こうしたリスクから子どもを守る必要があり、オーストラリアの規制に賛同する声があるのも理解できます。
しかし、一方的な規制が子どもにとっての利益を損なうことにならないか、という視点からの議論が十分に行われていないようにも感じます。
子どもにとってのSNSの役割とは?
SNSは今や、欠かせないコミュニケーションツールとなっています。
多くの子どもが「LINE」を利用し、友人や家族と連絡を取り合っています。
特に、緊急時にすぐ連絡が取れることは、保護者にとっても重要なポイントです。
また、友人との外出の様子を「Instagram」に投稿するなど、親しい間柄で楽しむ手段としても活用されています。
さらに、SNSを通じて虐待やいじめの兆候が明らかになるケースもあり、外部とのつながりを持つ手段にもなっています。
「X(旧Twitter)」などでは、目的に応じて複数のアカウントを作り、効率的に情報を収集する子どもも少なくありません。
このようなSNSの活用が、子どもたちの創造性を伸ばしていると感じます。
優れたコンテンツから学ぶだけでなく、自分の動画や作品を発信し、評価してもらう機会にもつながる点は、大きな魅力です。
また、このような創作の場には地域による差がほとんどないことも特徴です。
子どもの可能性を広げるために、大人が学ぶべきこと
現在活躍している歌手やイラストレーター、小説家の中には、SNSでの発信をきっかけに才能を開花させた人が多くいます。
もし子どものSNS利用を全面的に禁止すれば、こうした創作の場が失われ、将来の可能性を奪うことにもなりかねません。
それは、子どもの自己決定権を制限することにもつながります。
SNSの活用がもたらすメリットについて、社会全体でもっと理解を深めるべきではないでしょうか。
とはいえ、現状をこのまま放置してよいとは思いません。
まず必要なのは、子どもを守る立場にある大人が、SNSの仕組みやリスク、適切な管理方法について正しく学ぶことです。
しかし、現在の日本では、保護者や教育者がこうした知識を体系的に学ぶ機会はほとんどありません。
そのような状況の中で、子どもたちは何の指針もないままSNSの世界に飛び込んでいます。
SNS上でふるまいを学ぶのではなく、本来は身近な大人に相談できる環境が必要です。
重要なのは、子どもへの規制を強化することではなく、大人への教育を充実させることではないでしょうか。
大人が正しい知識を持ち、子どもに適切な助言を-矢萩邦彦さん(教育実践家・ジャーナリスト)-
「子どもにSNSをどう使わせればよいのか」と、多くの保護者から相談を受けます。
しかし、そもそも危険なサイトにもアクセス可能なインターネットそのものをどう捉えるべきでしょうか。
今の子どもたちにとって、デジタル機器は人とつながることを前提とした存在です。
その現実を踏まえた上で、誰でも情報にアクセスできる危険性を伝え、「どのような情報を発信してよいのか、どのような情報は控えるべきか」を具体的に教えることが重要です。
単なる一般論ではなく、SNSを通じた深刻ないじめ、闇バイトの事件、不正アクセスなどの具体的な事例を示しながら説明することで、子どもたちのデジタルリテラシーを高めることができます。
大人自身が知識を深め、解像度の高い助言をすることが求められています。
大人こそデジタルを理解し、子どもに適切な助言を
大人がデジタルに対する理解を深めなければ、子どもに適切な助言を届けることはできません。
まずは、子どもと同じツールを使い、実際に体験してみることが大切です。
SNSの仕組みや、他者との関わり方、課金の有無、広告の表示方法などを把握することで、より的確な指導が可能になります。
これはSNSだけでなく、オンラインでプレーできるゲームにも当てはまります。
その上で、「どのような人と、どんな目的でつながるのが安全か」を丁寧に説明すれば、適切な管理がしやすくなります。
また、単にスマホを手放せなくなっている子どももいるため、「1日30分まで」など、家庭内でルールを話し合い、合意を形成することが重要です。
子どもが健全にネットと向き合うために
子どもは先のことを考えるのが難しく、「今、この瞬間」を大切にしながら行動します。
そのため、発達段階に応じた適切な対応が求められます。
ペアレンタルコントロール機能を活用するのも一つの方法ですが、単にネットを制限するのではなく、自分なりの判断基準を持ち、「これでいいのか」と自ら考えられる力を育むことが大切です。
SNSが子どもを惹きつける理由の一つに、リアクションを通じたフィードバックがあります。
しかし、SNS上のフィードバックは断片的で、誤解を生むことも少なくありません。
それでも、家庭や学校で十分なフィードバックを得られない子どもにとっては、SNSでの「いいね!」が貴重な承認の機会となっています。
授業の効率や情報量では、ネット動画には敵わないかもしれません。
編集技術やテンポの良さも魅力的です。
しかし、同じ空間で共に学び、生のフィードバックを直接受け取れることが、対面の教育の強みです。
私の授業では、生徒がスマホを見ても構いません。私の話が面白ければ、自然とこちらに注意を向けるはずです。