子どもが不登校・・・離職せざるを得ない保護者たちの実態

全国の小中学校で不登校となっている児童・生徒の数は、35万人近くにのぼっています。
子どもが学校に通えなくなった場合、保護者のおよそ5人に1人が仕事を辞めざるを得ないという実態が、民間の調査により明らかになりました。
家庭の経済的な安定を保ちながら、子どもを支えていくためには、どのような支援策が必要なのでしょうか。
(※2025年3月9日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
娘を優先した決断の先に待っていた現実
北海道に暮らす49歳の女性は、12歳の娘が2022年11月に突然学校に行けなくなったことをきっかけに、生活の大きな転機を迎えました。
娘は小学4年生のときに新型コロナウイルスに感染し、それ以降、吐き気が続くようになり、登校を継続できない状況が続いていました。
女性はコールセンターで契約社員として働いていましたが、娘を一人で家に残すことはできず、有給休暇や介護休暇を活用しながら約1か月間、仕事を休みました。
しかし、娘の体調は改善せず、不安な日々が続きました。
ひとり親である彼女にとって、働き続けることは生活維持のために不可欠でした。
勤務先からは休職制度の利用を提案され、最長3か月の休職に入りましたが、その間も娘の状態は変わらず、復職の見通しが立たないまま2023年1月末に退職という決断を下しました。
その時点での所持金はわずか30万円。退職が自己都合扱いとなったため、失業給付の受給は5月まで遅れました。
生活費だけで月10万円以上が必要となり、貯金は急速に減っていきました。
「この先、どうやって生活していけばいいのか」と追い詰められ、借金まで頭をよぎるようになったといいます。
娘の回復と母の再出発、理解がもたらした小さな前進
4月に転機が訪れました。
娘を精神科で診てもらったところ、長く続いた吐き気は心因性のものであると診断されました。
これまで「学校に行ってみない?」と声をかけていた女性は、その言葉自体が娘の不調を引き起こしていたのだと気づき、初めて「無理に行かなくても大丈夫」と伝えることができました。
すると、5月には娘の吐き気が治まりました。
留守番も可能だと感じた女性は、7月から地元のスーパーで働き始めることにしました。
現在、娘はオンライン形式のフリースクールで学び、友人もできたそうです。
女性も再び職に就くことができ、今の生活に安堵しています。
その一方で、女性はこう感じています。
「子どもが学校に行けなくなるのは突然で、いつ終わるか分からない。親が経済的な心配をせずに向き合える、一定の休業支援制度が必要です」。
子どもの不登校が家庭に及ぼす影響、約2割の親が退職
子どもが学校に行けなくなった場合、保護者が働き続けることが困難になるケースが少なくありません。
東京に本社を構えるSOZOW社が、2023年8月から9月にかけて実施したアンケート調査では、オンラインフリースクールの保護者利用者484人のうち、有効回答が得られた187人に子どもの不登校によって生じた変化を尋ねました。
その結果、35人(全体の18.7%)が「勤務先を退職せざるを得なかった」と答え、約5人に1人の割合で離職が発生している実態が明らかになりました。
介護休業で娘との時間を確保。退職を回避した母の選択
退職せずに子どもとの時間を確保できた例もあります。
東京都で働く45歳の女性会社員は、12歳になる長女の不登校をきっかけに、1年間の介護休業を取得しました。
「娘の状態は日常的なサポートが必要で、介護と同じような対応が求められると感じました」と、当時を振り返ります。
長女が登校を嫌がるようになったのは、2019年4月、小学1年に進級した直後のことでした。
女性は約1週間にわたって学校まで付き添いましたが、娘は通学の途中で泣き出すなど、心の不安定さを見せるようになったのです。
共働きの家庭でしたが、娘は「お母さんがそばにいてほしい」と強く訴えるようになりました。
会社に相談したところ、介護休業の申請には必要性を示す書類の提出が求められました。
主治医からは「パニック障害などの症状により、常時の見守りが不可欠」と記された診断書が出され、それを基に同年6月から介護休業に入ることができました。
仕事と子育ての両立、変化と向き合う母の思いは
2020年、コロナ禍の影響で在宅勤務が導入されたことを機に、女性は仕事に復帰しました。
長女のサポートをしながら、自宅での勤務を続ける日々が始まりました。
現在、長女は小学6年生になり、考古学などの分野に関心を持つようになりました。
外出にも前向きになり、「博物館に行きたい」と話すほど活動的になってきています。
女性は、「当時、仕事を辞めて娘に付きっきりになることも考えましたが、それでは自分自身がつらくなっていたと思います。働き続けられて本当によかった」と語ります。
しかし、状況は変わりつつあります。
勤務先では2024年12月から、月の半分以上は出社が必要となる方針が示されました。
夫も在宅勤務が可能な職種であるため、互いにスケジュールを調整しながら、家庭と仕事のバランスを保つ努力を重ねています。
それでも、「このまま働き続けられるのかという不安は常につきまといます」と不安を打ち明けます。
また、「子どもの居場所を探した時、小学低学年向けの支援が極端に少ないことに気づきました。学年や個別の状況に応じた柔軟な支援体制が、社会全体に整っていてほしいと感じます」とも語りました。
子どもの不登校支援に「介護休業」を活用する道もあり
子どもの不登校と仕事の両立に悩む保護者にとって、利用可能な支援制度の一つとして「介護休業」があります。
この制度では、家族に継続的な介護が必要な場合、最長で通算93日間の休業が認められており、「子ども」や「孫」も対象に含まれています。
社会保険労務士の水城弘之さん(55歳)は、「国が定める要件に適合すれば、不登校のケースにも介護休業が適用できることがあります」と説明しています。
「常時介護」の条件としては、国が示す12項目のうち、たとえば「自己や他人を傷つける行動がある」ことなどが含まれます。
こうした状況がある場合には、不登校の子どもでも条件に合致する可能性がありますが、制度の利用可否は最終的には職場側の判断となります。
もっとも、介護休業の期間は最大でも93日間に限られています。
水城さんは「この制度は、単に親がすべての世話をするための時間というよりも、フリースクールの情報を集めたり、医療機関を受診したりと、社会的な支援につなげるための準備期間として活用してほしい」と語ります。
厚生労働省の担当者も、「休業期間中にすべての課題を解決するというよりも、今後の支援へとつなげるための土台を築く時間として考えていただきたい」と呼びかけています。